ひとくち伝言 平成19年5月

 先日、仲の良い友人が、ちょっといい話をしてくれました。

 「この前、買い物に行ったら途中で雨が降ってきちゃってね。傘を持ってなかったんだけど、そんなに強い雨じゃなかったからそのまま買い物を続けたんだ。で、横断歩道で信号を待ってたら、となりにいたおばさんが『信号を待ってる間だけでもどうぞ』って言って傘をちょっと俺の方に出してくれたんだ。なんか嬉しかったな。」

 この話を聞いて、私までなんだか嬉しくなってしまいました。相合い傘をしたら、よほど大きな傘でもない限り、肩の辺りが濡れてしまいます。にもかかわらず、その傘を差しだしてくれた方は、目の前で濡れながら信号を待っている私の友人に声をかけてくれたのです。
 その方にしてみたら、ほんの小さな親切だったのでしょう。自分が傘を持っていて、横にいる若者が雨に濡れながら信号を待っている。「ああ、寒そうだな」とか「冷たそうだな」と思ったら、自然と傘に間貸ししてあげたくなったのかもしれません。

 江戸しぐさという言葉があります。ありました、というべきかもしれませんが。広告でも紹介していましたので、ご存じの方も多いかと思います。これは、元々は江戸時代の商人の商売哲学だったわけですが、狭い町中で、お互いに気持ちよく生活していくための知恵であったように思います。

 少し紹介しますと、有名なところでは「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」というものがあります。「傘かしげ」というのは、往来ですれ違う時などに傘のしずくが相手に垂れないように、少し傘を反対にかしげ合うこと。「肩引き」は狭い道で、お互いに肩を引いて、半身になって通り過ぎること。「こぶし腰浮かせ」は乗り合い船で、こぶし一つ分体を浮かせて少し腰をずらし、一人一人が少しずつ詰め合って座るスペースを作ることだそうです。
 「傘かしげ」は現代でも大事なことですし、「肩引き」や「こぶし腰浮かせ」などは狭い道での車のすれ違いや、少し混んできた電車などの状況に当てはまりそうです。要は相手に対する思いやりでしょうか。

 他にも「忙しい、忙しいと言うな」「初対面の人に年齢、職業、地位を聞くな(肩書きで人を判断するな)」「紹介者を飛び越えて親密になるな(紹介していただいたことに感謝せよ)」「突然の訪問、遅刻で人の時泥棒をするな」など、いちいちなるほどと思う知恵がたくさんあります。また、これが商人の知恵だというのも面白いところで、つまりはそういった思いやりが、巡り巡って自分の商いに返ってくるというわけです。まさに「情けは人のためならず」といったところでしょうか。

 私の友人の体験談も、江戸しぐさの一つと言えると思います。いや、平成しぐさでしょうか。ほんの少し隣の人を思いやる、あるいはほんの少しずつ譲り合う気持ちが、ひいては私たちの居場所を快適にしていくのではないかと思います。

 ところで本当にどうでもいいんですが、相合い傘ってこういう字を書くんですね。ずっと愛々傘だと思ってました。


                                                  (榮雅)



ひとくち伝言板

◇5月〜7月の行事予定

5月6日 (日) 午前9時より  写経の会
5月17日 (木) 午後1時より  月例法要

6月3日 (日) 午前9時より  写経の会
6月17日 (日) 午後1時より  月例法要

7月6日 (日) 午前9時より  写経の会
7月7日頃〜15日頃    お盆棚経期間
7月17日 (火) 午後1時より  盂蘭盆大施餓鬼会(塔婆供養)

 今年もなんとか無事に花まつりコンサートを開催することが出来ました。庭の桜は少ししか花が残らなかったものの、本堂に活けた桜は見事に咲き誇り、春の一夜を飾ってくれました。
 ちなみに庭の少し残った桜は、目まぐるしい気温の変化や嵐のような雨風に耐えただけあって、だいぶ長い間咲いておりました。やはり試練を乗り越えると、人も植物も強くなるようです。