ひとくち伝言 平成21年3月

 少し前に、私の友人がとても大きな災難に逢いました。不幸中の幸いと言うべきなのか、損害はあったものの命には全く別状なかったようで、その知人は「九死に一生を得たよ」と笑っておりました。私はこの言葉を聞いてほっと一安心すると共に、なんだか少し不思議な気持ちがしたのです。決まり文句と言ってしまえばそれまでですが、いろいろなものを失ったにも拘わらず「得た」と言える。これはもしかすると、すごいことなのかも知れないと思ったわけです。
 
 インドの昔話に九十九頭の牛をもつ男と一頭しかもたない男の話があります。簡単に紹介いたしますと、牛を九十九頭も持っている男が、どうにかしてあと一頭を手に入れて百頭にしたいと考えます。そこで、牛を一頭持っている昔の友人のところへわざと見窄らしい格好で訪れ、「失敗をして財産を全て失ってしまったんだ。牛が一頭いればやり直せるんだが…」と嘘をついて牛を恵んでもらおうとするのです。牛を一頭しか持たない男は悩みますが、奥さんに「家族で頑張って働けばうちはなんとかなるのだから、お友達を助けてあげましょう」と言われ、友のために牛を譲るという話です。話はここで終わり、「あなたはどちらの男が幸せだと思いますか?」と最後に問われるのです。
 九十九頭を持つ男は九十九頭を持っているのに「あと一頭足りない」と、常に物足りなさを感じていた。百頭を手に入れて満足をしても、しばらくすると今度は百五十頭欲しくなって「あと五十頭足りない」と考えるようになるかも知れない。方法はともかく、目標を立てて邁進するその姿勢は前向きと言えなくもないかも知れませんが、常に自分の状態を「足りない」と感じてしまうのはマイナス思考とも感じられます。一方、一頭しか持っていなかった男は、自分の持つ一頭で昔からの友を救うことが出来た。きっと大きな満足を得たことでしょう。
 
 今の状況を自分が理想とする状況と比べると、どんどん引き算をすることになってしまって、「もっとお金があったらいいのに」とか「あんなことが無ければ今頃は…」というように、足りないものや無くしたものを意識させられてしまう。いくらたくさんのものを持っていても、足りないことの方が重くのし掛かってきます。逆に、何もないところから今の状況を考えていくと、普段は特別意識しないような何でもないことが、本当は素晴らしい価値を持っていることに気付くことが出来るのかも知れない。
 冒頭の話に戻りますが、私は災難に遭った私の友人の話を聞いた時、災難に遭わなかった場合から引き算をして「いろんなものを失った」と思いました。が、友人は「命も何もかも失うかも知れない」という状況から足し算をして「命を得た」と感じ、笑うことが出来た。きっと、命の有り難さを知り得たのだろうと思います。その友人は今もその前向きさで頑張っているようです。
 
 事が起きた時に、何かを失ったと思うのか、それとも何かを得たと思うのか。あなたはどちらの考え方がお好きですか?
                                                  (榮雅)



ひとくち伝言板

◇3月〜5月の行事予定

3月1日 (日)  午前9時より  写経の会  
3月17日 (火) 午後1時より  春彼岸大施餓鬼会(塔婆供養)
                     (お塔婆は前もってお電話かFAX、eメールにて 
                       お申し込みください。1本3,000円です。)

4月5日  (日) 午前9時より  写経の会
4月8日  (水)           花まつり(降誕会)
           午後6時より  花まつりコンサート
4月17日 (金) 午後1時より  月例法要
4月29日 (水)           多宝塔総供養(慈音会)

5月3日  (日) 午前9時より  写経の会
5月17日 (日) 午後1時より  月例法要


◇今年の節分はお天気に恵まれ、温かく風もない穏やかな日よりでございました。去年の節分は雪が降りましたので、事故や怪我の防止のために豆を手渡しする事になってしまい、豆「撒き」ならぬ豆「渡し」でございましたが、今年は景気よく豆撒きを行うことができ、やはり節分はこうでなくてはなぁと思いました。パーっと景気よく福を人様にお分けしてこそ、厄や不況も追い払えるのではないかと思います。

◇お釈迦様の誕生日である4月8日の花まつりに開催してきたコンサートも、今年で15回目となります。収益はNPO「幼い難民を考える会」を通じてカンボジアの子供たちへの援助となりますので、なにとぞお力添えをいただきたくお願い申し上げます。キリスト様の誕生日であるクリスマスがサンタさんがプレゼントをくれる日ならば、お釈迦様の誕生日である花まつりは我々がお釈迦様に代わって海外の恵まれない子供たちにプレゼントをする日と考えると、少し素敵だと思いませんか? チケットのご購入ももちろんですが、楽器搬入などにかかる経費もお手伝いいただけますと大変助かります。一口一万円でございます。
 しかも今年は、幻の楽器と言っても差し支えない、バッハが弾いたかもしれないピアノ(の原型)が再現され、初公開となります。これは世界でも貴重なものだそうで、私も今から楽しみにしております。皆様も是非足をお運びくださいませ。