ひとくち伝言 平成29年11月

 先日、私のスマートフォンが勝手に、「すき焼き風煮」というものについて調べていました。確認してみると、検索した単語が「スケジュール 創業 すき焼き風煮大勢」。外食産業でも立ち上げるつもりでしょうか。まぁ、機械というのは誤動作するものだと、その時は気に留めなかったのですが、また別の日には「ドイツ再契約 チャーリー・シーン」と検索していました。ハリウッド俳優にもあまり興味はないのですが……。いよいよ故障かなと思っているうちに、またもや勝手な検索がありました。「ガンジー 裁縫作業」。なんとなく聞き覚えがある語感。どうやら朝のお勤め中に、衣の袖の中に入れていたスマートフォンが誤動作によって声で検索するモードになってしまい、般若心経の一部が中途半端に入力されていたようです。「ガンジー 裁縫作業」は「観自在菩薩行(かんじざいぼさぎょう)」を、「ドイツ再契約 チャーリー・シーン」は「度一切苦厄舎利子(どいっさいくやくしゃりし)」を、「スケジュール 創業 すきやき風煮 大勢」は「色受想行識亦復如是(しきじゅそうぎょうしきやくぶにょぜ)」をスマートフォンが聞き間違えたのでありました。衣ごしに聞き取れた断片的な音を、情報網を駆使してもっともらしい単語に認識しようと頑張ったのでしょう。スマートフォンが少し、健気でいじらしく思えてきました。

 しかしながら、笑ってばかりはいられません。人間もまた、断片的な情報から、経験や知識をもとにもっともらしい認識を無意識のうちに作り上げているものです。某名探偵ほどではなくとも、例えば、ハァハァと息を切らせて走っている人の髪に寝癖が付いていたら、寝坊をして遅刻なのかな、と思うでしょうし、大きな荷物を引いている人がキョロキョロしていれば旅行者と推理できます。合っているかどうかは問題ではなく、とりあえずの判断です。だから、時には間違っていることや不正確なこともあるでしょう。西洋人風の外見だから英語が通じるだろうと思い込んだり、警察に追いかけられている人は悪い人なのだろうと判断したり。それは偏見であり、経験則でもあり、先入観とも、状況を察する想像力とも言います。社会生活や危険回避のためにある程度は必要な能力ですが、スマートフォンの誤認識のように、無茶苦茶な解釈をしてしまっている事もあるかも知れません。

 聞き間違えられたお経の文句、色受想行識は五蘊(ごうん)といって、人間とその周りにある世界の構成要素のことです。色は肉体、受は目や耳などの感覚器官が受け取る情報、想は情報を元に知識を総動員して考える働き、行は留まることのない心の流れや勢い、そして識がとりあえずの判断をした認識です。仏教はこんな具合に、心の作用をとても細かく分析した上で、それが実はあまり当てにならないんだよ、と教えています。自分の心、自分の認識というものは、その時その時の仮のもの。だから、あまりそういうものに振り回されないように気をつけようというわけです。

 昨日、般若心経や他のお経を唱えながら、でもガンジーさんだってお裁縫くらいなさっただろうなと、ふと考え込んでしまいました。いけない、いけない。ちゃんと読経に集中して、振り回されないようにしなければ。


草野榮雅 拝

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平成29年9月〜11月の行事予定 

 11月5日・6日 (日・月) 午前9時 写経の会
 11月11日 (土) 午前9時 坐禅の会     
 11月17日 (金) 午後2時 百観音総供養 境内百観音めぐり

 12月3日・4日 (日・月) 午前9時 写経の会
 12月9日 (土) 午前9時 坐禅の会
 12月17日 (日) 午後2時 納めの観音経読誦会法要
   
 1月元日 (月) 修正会 午前6時・午後2時に新年祈願護摩
 1月7日・8日 (日・月) 午前9時 写経の会
 1月13日 (土) 午前9時 坐禅の会
 1月17日 (水) 午後2時 初観音法要 (観音経読誦会)

◇11月は毎年、境内石仏の総供養として百観音巡りをいたします。本堂で観音経読誦と伴に護摩祈祷を修し、その後、境内 石仏一尊一尊を巡り、参拝していただきます。お賽銭は、観音様とのご縁を願って5円玉百枚(五百円)と両替できるようにご用意いたします。もちろん、ご自身でお賽銭をご用意いただいても結構です。
ご希望の方には、総供養の御朱印をお授けいたします。
なお、この機会に、境内百八十余尊の 観音様の中から、ご加護をいただく 特別な観音様を見つけ、ご縁を結ぶのはいかがでしょうか。高野山で行なわれて いる結縁灌頂になぞらえ、観音様との ご縁結びを予定しております。
 
◇正月の元日は日の出に合わせて元朝護摩を修法し、午後2時よりは新年の招福を祈願いたします。ご希望の方には内陣にお入りいただき、護摩の火の横で 直接添え護摩木をくべていただきます。どうぞご参拝ください。
また、今年も本尊、如意輪観音様の如意宝珠にお手綱をお繋ぎいたします。喉が渇いて仕方ない人に話を聞いてもらうには、まず水を飲ませてあげるのが良いように、如意輪観音様は、助けを求める人の願いを意のままに叶え、その後に仏の教えを説くと 言われます。どうぞ、お手綱を握り、心に念じて願いをお伝えくださいませ。