ひとくち伝言 令和元年9月

 「僕の顔をお食べよ」と、身を削って人助けをする正義のヒーロー、アンパンマンは子どもたちに絶大な人気のようで、もうすぐ二歳になる私の姪っ子も始終、アンパンマン、アンパンマンと連呼しております。考えてみれば、あらゆる声の基本であるア、パパのパ、ママのマといった唇の開け閉めだけで言える名前ですから、呼びやすいことこの上ない。だから、姪がアンパンマンばかり呼んで、伯父さんのことをなかなか呼んでくれなくったって、悔しくなんかありません。ええ、全く。
 さて、そんなアンパンマンですが、ヒーローとしてはなかなか変わっています。まず、一番の特殊能力が、力が強いとか素早いとかではなくて、頭が食べられるということ。しかも、食べられると弱ります。それでも彼は、ひもじい思いをしている人のために自分の身を差し出すことを厭いません。また、天敵のバイキンマンとも意外に仲が良い。もちろんバイキンマンのいたずらを諫め、懲らしめることはしますが、完全にやっつけるなんてことはせず、時に協力し、助け合います。対立はしていても、悪と決めつけてはいないのですね。
 アンパンマンの生みの親であるやなせたかし氏は、正義や悪といったものが立場によってコロコロと変わるものであることを従軍体験の中で痛感したそうです。しかし、ひもじい思いをしている人に食べ物を与えるということは、どんな時でも変わらない正義である筈だ。そんな思いから、悪と戦うのではなく、餓えという耐え難い苦しみそのものと戦うヒーローが生まれたのでしょう。

 このアンパンマンのように、慈しみの心で分け隔てなく皆を苦しみから救いたいと願い、行動する存在のことを、仏教では菩薩(ぼさつ)と呼びます。観音さまやお地蔵さまが有名ですね。それから、お悟りになる前のお釈迦さまも菩薩です。そういえばお釈迦さまの前世譚(ぜんせたん)に、餓えた虎の親子を救うため「私を食べなさい」と自分の身体を差し出す話がありました。ひょっとして、アンパンマンのモデルはお釈迦さまでしょうか。
 この話は単に自己犠牲が尊いということではなく、自分以外の命に対する思いやりや慈しみの心を持つ大事さを、いささか極端な形で説いています。自分だけは傷つかず損もしない、自分ファーストの生き方は心が安まらず苦しいもの。かえって多くのものを失います。一歩譲って自分以外の存在を尊重できる、そんな優しさこそが、幸せを引き寄せる本当の強さなのかも知れません。

草野榮雅 拝

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令和元年 9月〜11月の行事予定

 9月1日・2日 (日・月) 午前9時 写経の会
 9月14日 (土) 午前9時 坐禅の会
 9月17日 (火) 午後2時 秋彼岸大施餓鬼会
   お塔婆は前もってお電話かFAX、Eメールでお申し込みください。一本三千円です。
 10月6日・7日 (日・月) 午前9時 写経の会
 10月12日 (土) 午前9時 坐禅の会
 10月17日 (木) 午後2時 観音経読誦会

 11月3日・4日 (日・月) 午前9時 写経の会
 11月9日 (土) 午前9時 坐禅の会     
 11月17日 (日) 午後2時 百観音総供養


◇ 今年の献灯会は直前の台風発生に慌てさせられましたが、蓋を開けてみれば雨もほとんど降らず、無事にたくさんのお灯明が灯りました。必要経費を除いた純益、316,026円のうち、10万円を福島の子どもを支援しているボランティア団体SMRI(福島の子どもたちが放射線の心配なく外で遊べるよう、サマーキャンプを主催している団体)に、10万円を石巻の子どもセンターらいつ(子どもたちが主体的に運営に参加している子どもセンター)に、残りの116,026円を日本ユニセフ協会に寄付させていただきます。

◇ お施餓鬼会は別名、施食会と言い、餓鬼に食べ物を施す法要です。仏さま、ご先祖さまを供養するとともに、縁なき命に思いを巡らし、自分の心の中の餓鬼も供養いたします。
 塔婆供養は、事前にお申し込み願います。