ひとくち伝言 平成20年3月
知人の写真家が、ある一枚の写真を見せてくれました。それは、小さな女の子が野原に座り込み、とても素敵な笑顔で写っている写真でした。写真を見てる私まで笑顔になってきます。どうも笑顔というのは、伝染るもののようですね。欠伸みたいに。
写真を返しながら、「子どもって、なんでこんなにいい笑顔が自然にできるんでしょうね」と私が言いますと、その知人は首を振りながら、「いや、結構たくさん撮ったんだよ、ほらこれ」と言って別の写真の束を出してきました。それは、むくれていたりそっぽを向いていたり、イーッとしていたり目が半開きだったりといった、いろんな表情の写真でした。どうもその女の子は、あんまり協力的ではなかったようです。
しかも、聞けばその写真を撮った場所は私もよく知っている都内の某公園で、上手い具合に遊具やゴミ箱を避けて撮影されていました。「写真は嘘をつくんだよ」とその知人は言うのですが、なるほどなぁと考えさせられました。
背景と時間の中から、ほんの一部を切り出したのが写真です。その女の子は確かに素晴らしい笑顔も見せた。それは事実です。そういう意味では確かに「真を写した」ものなんですよね。ただ、他のものが隠れている。ふくれっ面や遊具のように、時には意図的に隠すことが出来る。写真は確かに真を写してはいるんだけれども、他の真を隠しているという意味では嘘つきかも知れません。
インドの故事に、目の見えない人が数人で象に触り、象とはどんなものかを話し合ったという話があります。足に触った人は「象とは太い柱のようだ、少し毛が生えてるけど」と言い、腹に触った人は「いやいや、大きな壁みたいだぞ、毛は生えてるけど」と言い、しっぽの先に触った人は「ほうきみたいにフサフサだよ」と言い、しっぽの根本に触った人は「細くてグネグネしてる」と言い、耳に触った人は「え、大きなウチワみたいだよ」と言い、鼻に触った人は「やわらかくて長い管でしょ」と言い…。さっぱり全体像が分からないという話です。この「群盲、象を撫ず」という故事は、「一部から全体を把握することは難しい」とか、「自分の経験した事に固執してはいけない」とか、いろんな解釈が出来ますが、この話の面白いところとして、誰も間違ってない。
みんなの言っていることはそれぞれ事実なんだけれども、どうしても食い違う。時には、みんな意地になって言い争いが始まってしまうかも知れません。しかもみんな事実を言っているし、どれも正解ではないから決着は着かない。で、段々と的はずれな言い争いになり、水掛け論になって…。ひょっとすると、我々の身の回りでも起こっていそうです。
写真に限らず、そして象に限らず、普段我々が見ているのはほんの一面なのだと思います。その一面にあんまりこだわり過ぎると、自分が見ていない他の面もあることになかなか気付けない。
自分が経験したものを片っ端から疑う必要はないと思いますが、なにか言い争いが起こりそうな時、「あ、もしかしたら今、象の鼻しか触っていないのかも」と思える、そんなやわらかい一面も、心のどこかに備えていたいものです。
(榮雅)
ひとくち伝言板
◇3月〜5月の行事予定
3月2日 (日) 午前9時より 写経の会
3月17日 (月) 午後1時より 春彼岸大施餓鬼会(塔婆供養)
お塔婆は前もってお電話かFAX、eメールにて
お申し込みください。1本3,000円です。
4月6日 (日) 午前9時より 写経の会
4月8日 (火) 花まつり(降誕会)
午後6時より 花まつりコンサート
4月17日 (木) 午後1時より 月例法要
4月29日 (火) 多宝塔総供養(慈音会)
5月4日 (日) 午前9時より 写経の会
5月17日 (土) 午後1時より 月例法要
◇今年の節分は雪が降る中での豆撒きとなりました。雪の節分というのは聞いたところによると昭和11年、二・二六事件があった年以来だそうです。なかなか大変な節分でしたが、もしかすると今年の節分も語り継がれていくのかも知れません。
◇1年の中で1日だけ、お寺の本堂がコンサートホールになる花まつりコンサートが、今年で14回目を迎えます。いつもご理解とご協力をいただき、ありがとうございます。
毎年楽しみにしてくださっている方も大勢いらっしゃると思いますが、今までいらっしゃる機会がなかった方も、是非一度おいでいただければと思います。
収益はNPO「収益は全て幼い難民を考える会」を通じてカンボジアの子供たちへの援助となります。また、楽器搬入等にかかる費用をお手伝いいただけると大変助かります。1口1万円でございますが、どうかよろしくお願いいたします。
◇4月20日の午後、明治寺に猿回しが来ます。民俗学者の宮本常一氏が提唱し、復活された周防猿回しです。以前にも一度来ましたが、その時の方の息子さんが跡を継ぎ、全国を巡業なさっています。
もしよろしければ、どうぞ足をお運びください。