ひとくち伝言 平成28年11月

 2016年はお遍路の逆打ちの年のためか、四国八十八ヶ所の話をよく耳にいたします。逆打ちというのは八十八番の札所から逆回りで巡拝することで、閏年の今年はなんとご利益が三倍!しかもその逆打ちでお大師様に会えたという伝説がある丙申の年です。六十年に一度のチャンスということで、私も先日、愛媛県の札所のみですが巡拝して参りました。
 八十八ヶ所の中には町中にあるお寺もありますが、深い山奥にあったり長い階段があるお寺も多く、現代でもなかなか大変な道のりです。あるお寺では坂を登ってようやく山門に辿り着くと、その先にさらに階段があり、やっとのことでそれを登ってみれば下からは見えなかった階段が横に続いているといったような具合。あの曲がり角まで登ればお堂が見えるんじゃないか、次で最後の階段だろうと思う度に、その淡い期待は裏切られるのでした。それでも、歩き続ければいつかは辿り着くもの。曲がり角ごとに休憩を取りながらお堂に到達し、ふと後ろを振り返れば山門が遥か遠くの方に見えます。最初からこの距離を知っていたら、もしかしたら諦めていたかも知れません。

 妙法蓮華経の中に化城喩(けじょうゆ)という譬え話があります。長く危険な道に怯み、諦めようとする隊商をどうにか目的地へ連れて行こうとする案内人の話で、彼は神通力で手近なところにお城を出現させ、「あそこまで行けば大丈夫。皆さん頑張りましょう」と励ますのです。隊商の皆が城に辿り着き、休息をとったところで「実はこのお城は私が作った幻なのです。目的地はまだ先ですが、もう少しです。頑張りましょう!」と再び先を促すのでした。これは、妙法蓮華経が説く悟りこそ最終目標で、他の教えはそこに至るための仮の目標なのだということを論じているのですが、人の心理を見事に捉えた比喩でもあります。
 先の見えない努力を続けるのは、なかなか難しいことです。長すぎる道のりを考えると苦労や不安ばかりが目につき、諦めたくなってしまいます。そんな時は目に見える現実的な目標を立てて、一歩一歩着実に歩むのがいい。やがてその目標に辿り着いた時、そこで初めて見えてくる道筋もあることでしょう。

 仏の教えをあんまり俗っぽく受け止めることには賛否ありましょうが、このような浅い解釈も、深秘に至るための身近な足掛かりとしてご容赦いただけたなら幸いです。

草野榮雅 拝

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平成28年 11月〜 1月の行事予定 

 11月5日 (土) 午前9時 坐禅の会
           〔十一月は第一週に行います〕
 11月6日・7日 (日・月) 午前9時 写経の会
 11月17日 (木) 午後2時 百観音巡り
               百観音総供養

 12月4日・5日 (日・月) 午前9時 写経の会
 12月10日 (土) 午前9時 坐禅の会
 12月17日 (土) 午後2時 納めの観音経読誦会法要
   
 1月14日 (土) 午前9時 坐禅の会
 1月8日・9日 (日・月) 午前9時 写経の会
 1月17日 (火) 午後2時 初観音法要 (観音経読誦会)

◇ 11月の坐禅の会は、住職の都合により第一週の土曜日に行います。ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

◇ 11月は毎年、境内石仏の総供養として百観音巡りをいたします。
 本堂で護摩祈祷の後、境内の石仏一尊一尊を巡り、御参拝くださいませ。お賽銭は観音様とのご縁を願い5円玉百枚(五百円)を1セットとしてご用意しますが、ご自身でお賽銭をご用意いただいても結構です。ご希望の方には、総供養の御朱印をお授けいたします。また、護摩祈祷の護摩札をご希望の方は、一体三千円です。

◇ お正月は、元日の朝と午後二時より護摩を修法し、新年の招福を祈願いたします。