ひとくち伝言 平成30年3月
ある日、お寺を訪ねてこられた方が、おもむろに「あのー、おさつを焼いてもらえますか?」と仰いました。おさつ?お金を焼くのは犯罪じゃなかったかな?それとも薩摩芋のこと?いろいろ考えても何のことか分からず戸惑っていると、バッグからごそごそと取り出されたのは去年の護摩札。ああ、なるほど。「お札(ふだ)」とも「お札(さつ)」とも読みますものね。経済の象徴と信仰の象徴が同じ字なのは不思議ですが、そういえば紙幣や貨幣の幣も、神主様がお祓いの時にお振りになる大幣(おおぬさ)や、神仏の依り代となる御幣(ごへい)と同じ字です。何か理由があるのでしょうか。
お札(さつ)も貨幣も、ほとんどがその「物」自体の価値よりも大きな価値を持っています。一円玉と五円玉だけは原価の方がちょっぴり高く、十円玉がだいたいトントンだそうですが、一万円札自体の原価はなんと約二十円、一番原価が高いらしい五百円玉が約三十円ほど。それなのに、なぜ額面分の価値があるのかと言えば、その紙切れや金属の板に法律や政府が効力を与えて、価値の代わりとなることを約束しているからですね。最近、よく耳にする仮想通貨というのは、紙や金属板のような基盤になる物がなく、お互いの約束の下にその価値のみを扱っているようなものでしょうか。
お札(ふだ)や御幣も貨幣などと一緒で、物自体はただの木の板であったり、紙切れかも知れません。しかしながら、そこには仏さまや神さまのご縁とご加護が込められています。お金を使う時、法律の文面なんて持ち出さなくてもその効力が働いて価値を発揮するように、お寺や神社でしっかりご祈祷されたお札や御幣は目に見えずともちゃんと神仏と繋がっていて、御本尊、ご神体の代理としてそのお力を働かせています。たとえお札や御守りの効き目を信じていない方でも、粗末にするのが憚られるのは、やっぱりただの「物」以上の何かを感じているからなのでしょう。
その、仏さまのご加護の力を受けることを「加持(かじ)」と言います。「加」は仏さまの慈悲が私たちに届くこと、「持」は私たちがその事に気付き、力を受け止めること。ちょうど、船が帆を広げて風を受けとめ、海原をグングンと進んでいく力を生み出すようなものです。お札(ふだ)を大事にしていただくことは、仏さまの風が吹く方向に心を向けることと言えるかも知れません。
ちなみに、お金を損傷させてはいけない「貨幣損傷等取締法」は、硬貨のみが対象だそうです。紙幣に関しては、国立印刷局によると「直ちに違法ではないけれども、みんなで使うものなので大切にしてください」とのこと。お札にせよ、お札にせよ、大事にしていただくことで、「ご利益」はより大きくなることと存じます。
草野榮雅 拝
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平成30年3月〜5月の行事予定
3月4日・5日 (日・月) 午前9時 写経の会
3月10日 (土) 午前9時 坐禅の会
3月17日 (土) 午後2時 春彼岸大施餓鬼会
4月1日・2日 (日・月) 午前9時 写経の会
4月8日 (土) 午後6時 花まつりコンサート
4月14日 (土) 午前9時 坐禅の会
4月17日 (火) 午後2時 観音経読誦会
4月29日 (日) 午後2時 慈音会総供養
5月6日・7日 (日・月) 午前9時 写経の会
5月12日 (土) 午前9時 坐禅の会
5月17日 (木) 午後2時 観音経読誦会 護摩供養
▼◇春分の日前後の一週間、昼夜の長さが丁度同じくらいになる期間がお彼岸です。その少し前の17日にはお施餓鬼の法要を行い、ご先祖様や亡くなった方々をご供養いたします。お塔婆をご希望の方は、事前にお申し込みくださいませ。
◇今年の花まつりコンサートは、4月8日です。19世紀、ピアノがまだ無かった頃にバッハ達の曲はどんな音で奏でられていたのか。その当時の楽器が、二百年の時を超えて修復され、本堂にその音を響かせます。どうぞお楽しみに。
また、もしコンサート開催、楽器運搬の費用をお手伝いいただけましたら有難く存じます。よろしくお願いいたします。
◇ Q&Aコーナー
仏事に関する疑問に不定期でお答えしてまいります。気になる事、いまさら聞き難い事など、話題提供と思ってお寄せください。