ひとくち伝言 令和5年3月

 お坊さんの袈裟の左肩に、ゴツい飾り紐のようなものがぶら下がっているのをご覧になったことがあるでしょうか。大きな法要の時にしか着けませんので、あまり見る機会が無いかも知れませんが、あれは修多羅(しゅたら)と言います。お経をまだ葉っぱに書き記していた頃、その葉っぱを重ねて順番に通す経糸(たていと)のことを、古代インドではスートラと言いました。転じて経典を意味する言葉となり、それが訛って修多羅。つまりあの飾り紐は、お経を身にまとい、自身を秩序正しくまとめ上げることの象徴なんです。一説には「ふしだら」という言葉の語源は不修多羅だそうで、節度なくばらけた様子を表します。

 お経が時代を越えて通された経糸であるように、私の修多羅も父から受け継いだものです。二十年近く使っているのですが、つい先日、その修多羅の表に出ない部分、結び紐のほつれ止めのように巻かれていた紙が剥がれました。すると、そこにはなにやら文字が書かれていたのです。「秘伝」の文字がチラッと見えました。まさか、真言密教の隠された秘密が? ドキドキしながら紙片を開くと、そこに書かれていたのは、「妹尾かっぱ 旅を楽しむ秘伝公開」……。ラジオかなにかを録音したカセットテープのラベルでした。たまたまカバンの中でくっついたのか、紐をまとめるために父がラベルテープを流用したのか。奇跡的な巡り合わせを期待したのに、この高揚感をどうしたらいいのか……。
 妹尾河童氏と言えば『河童が覗いたインド』『河童が覗いたヨーロッパ』などの旅行エッセイが代表作です。本を引っ張り出して読んでいると、自然と旅をしたくなって参りました。違う価値観に触れたい。思えば、このコロナ禍のお籠りでは、多くの情報が画面越しでした。地球の裏側のこともすぐに分かる時代ではありますが、情報の奥行きがありません。映画のスクリーンに囲まれているようなもので、自分が触れられる世界が極めて狭くなっている。自分中心の狭く閉じた世界では、あらゆることが自分優先の視点、「自分にとって都合が良いか悪いか」という見方になってしまいます。知らず識らず、考えの幅も狭くなっていたかも知れない。その分、掘り下げて深くなったものもあるのでしょうが……。

 コロナへの恐怖が徐々に治まりつつある今、いきなり旅行とまではいかなくとも、周りを見回して関わりを広げ、少しずつ自分の世界を広げていく時期かも知れません。ただし、不修多羅にならないように。節度という経糸を忘れないようにしないといけませんね。

草野榮雅 拝

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令和5年3月~5月の行事予定

 3月5日・6日 (日・月) 午前9時 写経の会
 3月17日 (金) 午後2時 春彼岸大施餓鬼会
              お塔婆のお申し込みは前もってお電話かFAX、
              Eメールにてお願いいたします。1基三千円です。

 4月2日・3日 (日・月) 午前9時 写経の会

 4月8日 (土) 花まつり(降誕会)

 4月17日 (月) 午後2時 観音経読誦会(月例法要)
 4月29日 (土・祝日) 午後2時 慈音会総供養

 5月7日・8日 (日・月) 午前9時 写経の会
 5月17日 (水) 午後2時 観音経読誦会 並びに護摩供養
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◇ 昼夜の長さが同じくなる春分と秋分の時期をお彼岸と申します。
彼方の岸を此方の岸から想いつつ、我と他、彼と此を区別する心を抑えることを心がける修行週間でもあります。
お塔婆を立てて彼の岸へご供養なさる方は、事前にお申込みくださいませ。一基三千円のご志納となります。

◇ 今年の節分祭は三年振りに豆「撒き」を行うことができました。
行動制限中は豆「配り」でしたので、少し物足りなさがありましたが、ようやく賑やかに春迎えの行事を行うことができました。
ありがとうございました。

◇ 毎月一回、不定期で坐禅の会を行っています。詳細はお問合せください。
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