ひとくち伝言 令和5年5月

 先日、師僧の松長有慶先生が亡くなられ、最後のお別れと感謝を申し上げに高野山まで行って参りました。思えば二十年前、父が亡くなる半年前に高野山に上がり、松長先生と出逢ったことで、私は仏教に納得ができたように思います。先生は学者肌で、よく「儂は最初、空海さんが嫌いやった」と笑いながら仰っていた。初めてその言葉を聞いた時に、「あ、無理に信じようとしなくとも、疑いも反感も全部受け止め切ってくれるんだ」と、安心したのを覚えています。それまで私は、宗教や信仰というものは情動的で、理知的では無い世界だと思っていたんです。しかしその中身は驚くほどに精緻で、極限まで人間の存在を見通そうとする道でした。先生はその翌年から金剛峯寺座主となられ、高野山一山を束ねる立場となられましたが、伝授や講演で度々、教えを乞いに上がりました。この十年ほどは、毎月のご自宅での勉強会にも参加させていただき、兄弟子たちと共に謦咳に接しました。

 密教は師との縁を大事にします。弘法大師空海は留学生として唐に渡り、恵果和尚という師と出逢いました。大師は僅か半年ほどの間に全てを授けられ、そして師を看取ります。その墓碑には「非冒地之難得、遇此法之不易也」という大師の詩が刻まれました。「師との出遭いの得難さに比べれば、悟ることなど大したことではない」という、大胆な言葉です。それほどまでに師を重んじ、そして「早く国に帰って人々を救え」との師の遺言に従い、大師は一命を賭して帰国しました。

 同じ言葉でも誰から聞いたかで印象が変わるように、出遭い方によって受け止め方は変わります。師に限らず教えに限らず、今、ご自身になにか大切なこと、大事なものがあるならば、それは善い出遭いだったということなのでしょう。もしも最初は誤解や嫌悪があったとしても、実はそれが必要だったのかも知れません。逆に、今それほど大事ではないことも、出遭い方次第では大切なものになっていたのかも知れない。それほどに出遭い、縁というものは私たちの生き方、考え方を左右します。全ての縁が今の自分を作り上げている。縁を大事にすることは、自分を大事にすることでもあります。

 「もし松長先生に出遭わなかったら」ということを考えていたら、縁の不思議さに只々有り難さが込み上げてきました。今は御縁に感謝しつつ、静かに哀悼しております。

草野榮雅 拝

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令和5年5月~7月の行事予定

 5月7日・8日 (日・月) 午前9時 写経の会
 5月17日 (水) 午後2時 観音経読誦会 並びに護摩供養
 5月27日 (土) 午前9時 坐禅の会

 6月4日・5日 (日・月) 午前9時 写経の会
 6月17日 (土) 午後2時 観音経読誦会
 6月24日 (土) 午前9時 坐禅の会

 7月2日・3日 (日・月) 午前9時 写経の会
 7月17日 (月) 午後2時 盂蘭盆大施餓鬼会
 7月30日 (日) 午後6時 献灯会

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◇ 正五九(正月、五月、九月)は、一年を三分割した時の節目に当たります。
大きく気候が変わり、身体と心のバランスを崩しやすい時期に、心身堅固の御祈願をいたします。
どうぞご参拝くださいませ。

◇ 今年の献灯会はコロナ禍前のように、賑やかに催行したいと考えております。
これまでのご縁に感謝しつつ、これからのご縁を良きものとするべく灯明を供え、お祈りください。

◇ 坐禅の会のご参加は、事前にお申し込みをしていただいております。参加希望の方はメール、ライン、電話等でお知らせください。
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         百観音坐禅の会 @040haupf
          

◇ 百観音明治寺フェイスブックページ
  https://www.facebook.com/meijidera/

◇ 7月、8月はお盆の時期です。ご希望の日時がある方は、お早めにご連絡をお願いいたします。
 お盆はご先祖様、お亡くなりになった方をご自宅にお迎えする行事です。お仏壇で読経し、ご供養いたします。もしご自宅で行うことが難しい場合は、お位牌を寺までお持ちいただき、本堂でお勤めいたします。